和を以て貴しとし
~作法やマナーが日本を再活性化する~
博報堂生活総合研究所 上席研究員
古澤 直木
侍ジャパンが見事に連覇を果たし、日本中が喜びに沸いたワールド・ベースボール・クラシック(以下、WBC)の決勝戦から早くも2カ月以上が経とうとしています。WBCでは日本代表のメンバー同士の気遣いやチームとしての結束力が注目され、日本人の精神性について考え直すきっかけになったようです。今回は、博報堂生活総合研究所の『生活定点』調査の最新データから、いまの生活者の日本に対する意識、日々の生活におけるマナーや習慣について考えてみましょう。
「国民としてのまとまり」は日本の誇りのなかでは最下位
生活者が「日本の国や国民について誇りに思うこと」のランキング・トップ5を10年間にわたって見たものが表1である。生活定点では、直近の3時点で「すぐれた文化・芸術」がトップ、2位に「長い歴史と伝統」、3位に「美しい自然」が挙がり、4・5位に「治安がよいこと」と「安全な暮らし」が続いている。WBCでは全国が熱狂に包まれた感があったが、日本の誇りとしての「国民のまとまり」はこの10年間、ずっと16項目中で最下位にランクされている。生活や価値観が多様化していくなかで、国民として一体感を感じる機会の少なさが、逆にWBCの盛り上がりを生んだと言えるかもしれない。
では、生活者の日々の行動におけるマナーや習慣といった心のまとまりに関しては、生活定点からどのような推移を見ることができるのだろうか。

習慣やしきたりに従う?マナーに気をつける? (グラフ1)
まず、「習慣やしきたりに従うのは当然だと思う」という回答率は、男女全体で1998年に38.1%だったのが2006年に上昇を示し、2008年には44.4%になっている。性別で見ると、2002年と2004年は男性が女性を上回っていたが、2006年からは男女でほぼ同じスコアとなっている。
また、「公共のマナーに気をつけた生活をしているか」という質問に対して、「かなり気をつけている」と「やや気をつけている」と答えた人の計は、男女全体で1998年の71.8%から2008年には74.0%と高い回答率で推移している。性別では毎回、女性が男性を上回っており、女性のマナー意識の高さがうかがえる。
ということで、男女全体では「習慣やしきたりに従う」人はアップ・トレンドにあり、「公共のマナーに気をつけている」人は高いスコアをキープしている。ちなみに2008年の最新データを年代別で見ると、「習慣やしきたり」も「公共のマナー」も、男女ともに年代が上になるにつれてスコアも上がる傾向が見られる。読者ご自身のことを振返ってみて、いかがだろうか。

「いただきますとごちそうさま」は過去最高 (グラフ2)
続いて、作法やマナーなどに関連する生活者の具体的な行動や意識について見てみよう。
「人とのつきあいで、作法やしきたりを知らなくてもあまり気にしない方だ」の回答は20%台で推移し、2004年から微減している。また、「従来のスタイルや基本形にはこだわらない服装をする方だ」「友達のような親子関係がよいと思う」は、この10年でともにスコアを落とし、2008年にはそれぞれ21.7%、29.1%となっている。逆に「子供のしつけは親の責任であると思う」は、80%台でじわじわと回答率を上げてきている。作法やスタイルは人と歩調をあわせ、親子はしっかりけじめをつけ、しつけを行う、という流れがあるようだ。さらに生活において、ごく基本的なマナーである「いただきますとごちそうさまは必ずいう」は、2008年調査で60.0%と過去最高値をマークした。このように、作法やマナーといった面で、人との調和や他者への配慮が改めて大切にされはじめているなかで、生活者は日本の今後をどうとらえているのか。

作法やマナーが活性化のモーターに
生活定点の回答では、「日本の方向は悪い方に向かってゆく」は2006年の52.8%から2008年には65.0%へ、「日本人の方向は悪い方に向かってゆく」は2006年の62.4%から2008年は65.4%へとネガティブな動きを示している。
ただ、一方で冒頭にご紹介した「日本の誇れること」では、「国民の人情味」が2008年に36.9%と過去最高値を記録している(ランキングは7位)。そして、生活定点の質問のなかでも極めて稀に、長期にわたり80~90%台と高位安定的な回答を得ているものとして、「信じるもの:人の善意」と「信じるもの:愛」がある(グラフ3)。いつの時代にあっても人は「人の善意」と「愛」を信じたい、という願望の現われなのかもしれないが、これはとても心強いデータである。
WBCでは、イチロー選手の「ごちそうさま」の表現も話題になった。善意や愛をベースに、日ごろの作法やしきたり、マナーなどがより見直されれば、侍ジャパンのように、日本人の心を一体化し活性化するモーターは強力になり、未来にも明るい兆しが見えてくるのではないだろうか。

(掲載 : JRガゼット・2009年6月号・株式会社交通新聞社)
調査概要
「生活定点」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。
「国民としてのまとまり」は日本の誇りのなかでは最下位
生活者が「日本の国や国民について誇りに思うこと」のランキング・トップ5を10年間にわたって見たものが表1である。生活定点では、直近の3時点で「すぐれた文化・芸術」がトップ、2位に「長い歴史と伝統」、3位に「美しい自然」が挙がり、4・5位に「治安がよいこと」と「安全な暮らし」が続いている。WBCでは全国が熱狂に包まれた感があったが、日本の誇りとしての「国民のまとまり」はこの10年間、ずっと16項目中で最下位にランクされている。生活や価値観が多様化していくなかで、国民として一体感を感じる機会の少なさが、逆にWBCの盛り上がりを生んだと言えるかもしれない。
では、生活者の日々の行動におけるマナーや習慣といった心のまとまりに関しては、生活定点からどのような推移を見ることができるのだろうか。
習慣やしきたりに従う?マナーに気をつける? (グラフ1)
まず、「習慣やしきたりに従うのは当然だと思う」という回答率は、男女全体で1998年に38.1%だったのが2006年に上昇を示し、2008年には44.4%になっている。性別で見ると、2002年と2004年は男性が女性を上回っていたが、2006年からは男女でほぼ同じスコアとなっている。
また、「公共のマナーに気をつけた生活をしているか」という質問に対して、「かなり気をつけている」と「やや気をつけている」と答えた人の計は、男女全体で1998年の71.8%から2008年には74.0%と高い回答率で推移している。性別では毎回、女性が男性を上回っており、女性のマナー意識の高さがうかがえる。
ということで、男女全体では「習慣やしきたりに従う」人はアップ・トレンドにあり、「公共のマナーに気をつけている」人は高いスコアをキープしている。ちなみに2008年の最新データを年代別で見ると、「習慣やしきたり」も「公共のマナー」も、男女ともに年代が上になるにつれてスコアも上がる傾向が見られる。読者ご自身のことを振返ってみて、いかがだろうか。
「いただきますとごちそうさま」は過去最高 (グラフ2)
続いて、作法やマナーなどに関連する生活者の具体的な行動や意識について見てみよう。
「人とのつきあいで、作法やしきたりを知らなくてもあまり気にしない方だ」の回答は20%台で推移し、2004年から微減している。また、「従来のスタイルや基本形にはこだわらない服装をする方だ」「友達のような親子関係がよいと思う」は、この10年でともにスコアを落とし、2008年にはそれぞれ21.7%、29.1%となっている。逆に「子供のしつけは親の責任であると思う」は、80%台でじわじわと回答率を上げてきている。作法やスタイルは人と歩調をあわせ、親子はしっかりけじめをつけ、しつけを行う、という流れがあるようだ。さらに生活において、ごく基本的なマナーである「いただきますとごちそうさまは必ずいう」は、2008年調査で60.0%と過去最高値をマークした。このように、作法やマナーといった面で、人との調和や他者への配慮が改めて大切にされはじめているなかで、生活者は日本の今後をどうとらえているのか。
作法やマナーが活性化のモーターに
生活定点の回答では、「日本の方向は悪い方に向かってゆく」は2006年の52.8%から2008年には65.0%へ、「日本人の方向は悪い方に向かってゆく」は2006年の62.4%から2008年は65.4%へとネガティブな動きを示している。
ただ、一方で冒頭にご紹介した「日本の誇れること」では、「国民の人情味」が2008年に36.9%と過去最高値を記録している(ランキングは7位)。そして、生活定点の質問のなかでも極めて稀に、長期にわたり80~90%台と高位安定的な回答を得ているものとして、「信じるもの:人の善意」と「信じるもの:愛」がある(グラフ3)。いつの時代にあっても人は「人の善意」と「愛」を信じたい、という願望の現われなのかもしれないが、これはとても心強いデータである。
WBCでは、イチロー選手の「ごちそうさま」の表現も話題になった。善意や愛をベースに、日ごろの作法やしきたり、マナーなどがより見直されれば、侍ジャパンのように、日本人の心を一体化し活性化するモーターは強力になり、未来にも明るい兆しが見えてくるのではないだろうか。
(掲載 : JRガゼット・2009年6月号・株式会社交通新聞社)
調査概要
「生活定点」
調査目的 : 2年ごとに同じ質問を、繰り返し同一条件の層の対象者に尋ね、人々の生活動向の変化を量的にとらえる。
調査地域 : 首都40㎞圏(東京・埼玉・千葉・神奈川・茨城)、阪神30㎞圏(大阪・京都・兵庫・奈良)
調査対象 : 20~69歳の男女
調査方法 : 訪問留置法
調査時期 : 隔年5月(2008年度:5月14日~6月2日)
サンプル数 : 1992年:1,976名、1994~2002年:2,000名、2004年:3,105名、2006年:3,293名、2008年:3,371名 (有効回収)
男女それぞれ5歳刻みを1グループとして、最も少ないグループでも有効回収数が125人となるように、2005年国勢調査結果に基づきサンプルの割付を行った。
サンプリング : 該当エリアの町丁目別世帯累積表より、1地点10人前後とした時の地点を等間隔で抽出し、該当地点で対象者を設定した。