
今回の連載最終回では、3月21日に東京ミッドタウンにて発表された震災時の安心づくりのための生活者のデザインアイデアをご紹介していきます。優秀15案(最優秀3案含む)のプレゼンテーションが行われ、第一線で活躍するデザイナー・研究者6名(生活総研所長・嶋本を含む)のアドバイザー個人賞が発表されました。ここでは、最優秀3案と個人賞6案の計9案をご紹介します。
最優秀3案
- water triage : 西川亮・萩原盛之 (神戸芸術工科大学)
- Tsumugu : 岡本哲弥・林祐太朗 (九州大学大学院)
- Star Night Project : 松迫崇道・中澤亮惣 (千葉大学)
アドバイザー個人賞
- 赤池学賞 - かぐや姫 : 大崎美樹 (岐阜大学) ・ 白木彩智 (東京造形大学)
- 青木史郎賞 - Edible City : 河合雄介・實方華子 (立命館大学)
- マエキタミヤコ賞 - Villanet : 松迫崇道・中澤亮惣 (千葉大学)
- マエキタミヤコ賞 - 巣み家 : 神谷美冴・成瀬蓉子 (京都造形芸術大学)
- 近藤康夫賞 - 避難生活DS : 川崎修良 (京都大学大学院)・藤戸孝俊(京都府立医科大学)
- 嶋本達嗣賞 - 墾ポスト : 森啓彰・横山雄樹 (九州大学大学院)
- 永井一史賞 - Star Night Project : 松迫崇道・中澤亮惣 (千葉大学)
最優秀3案
Water triage
課題 : 水不足
アイデア : 水を再活用するトリアージタグ
限られた水を効率よく再利用する方法を考えました。生きるために必要な飲料水、生活の多様なシーンで活躍する生活用水、トイレで使用する排水、水の状態を3段階で判別し、タグで表示します。貴重な飲料水は白黄黒の3色タグ。飲むことができない川の水、雨水は白タグを切り、黄黒の2色タグに。風呂・洗濯などで十分活用し、汚れきった水は黄色タグを切り、黒1色のタグに。トイレの排水用に使います。タグを切る行為、それは水をつなげる行為です


Tsumugu
課題 : 硬く冷たい床での生活
アイデア : 床生活から解放するモジュール型学校机
生活空間を上げること、それは個人の生活と通路にゆるやかな境界を設けること。ほんの40センチ上げるだけで、通気性が上がり、立つ、座るの肉体的負荷が減ります。「腰掛ける」という動作を通して、さりげない会話が生まれ、精神的な安心にもつながります。普段、学校で使用している机と椅子を分解し、パーツを組み替えることで、時にはベンチを、時には座椅子とちゃぶ台を、
時には着替えのための個人空間を、避難所に必要な高さと空間を生み出します。


Star night project
※永井一史賞を同時受賞
課題 : 助け合い行動の不足、行政やボランティア頼みの運営
アイデア : 感謝を可視化する星形カード
星を灯す。感謝を星というカタチに。行政やボランティアに頼らずとも、住民同士の助け合いで解決できる問題が多数あるはずです。全員に5枚の☆形カードを配布します。手助けをしてもらった時、親切を受けた時、それを感謝のキモチとして相手に贈ります。カードの表面のシールをはがし、思い思いの場所に貼ります。感謝の気持ちが住民間で行き交うたびに一つずつ、一つずつ星が増えていきます。それが、いずれ真っ暗で不安な夜を照らす天の川となるでしょう。

アドバイザー個人賞
かぐや姫
赤池学賞
課題 : トイレの混雑 女性特有の生理問題
アイデア : 女性専用サニタリーシェルター
女性が衛生的な状態を保てない。その最大の理由はトイレの混雑と不衛生にあります。トイレに行きたくないが故に生理用品の交換を我慢してしまう、それはごくあたりまえの行動心理です。女性の生理用ユニット「かぐや姫ルーム」の設置を提案します。水回りは必要ありません。女性がプライバシーを保てる箱を用意するだけで、病気の予防に加え、生理用品の置き場、着替えなど、
女性固有の様々な問題解決につながります。トイレの列も1日90人分減ることになります。まさに女性のための魔法の箱です。

都市を食べよう!Edible City
青木史郎賞
課題 : 被災直後の食糧不足
アイデア : 食べられるまちづくり
古来、日本人は飢饉に備え、土壁の中に非常食の藁を塗り込めていました。都市化した現代の日本でも、都市や住宅のどこかに非常時の食糧を埋め込むことができるはずです。学校の池を淡水魚や甲殻類の貯蔵庫に、校庭の鳥小屋を毎日の動物性たんぱく質の源に空き地にはそば、いも、根菜類を、街路樹には四季折々の果実を。植物繊維を破壊し、やわらかくする爆破レンジを用いれば、街路樹の枝すらも貴重な食料です。食べられるまちづくりは非日常のお腹を満たし、日常の生活を豊かにしてくれます。
日本の食料自給率アップにもつながるかもしれません。

Villa net
マエキタミヤコ賞
課題 : 他人との近すぎる距離感、遠すぎる関係性
アイデア : 距離を加減できるネットパーテーション
着目したのはネットという素材。頭上に吊るされたワイヤーにかかった一人一枚のネット。この半透明な仕切りは、洋服をかけて簡易目隠しにしたり、大きめのタオルをのせて天井光を遮ったり、自分の必要に応じたゆるやかなプライバシー空間を生み出します。それらが交互に繰り返され、縦に繋がる長屋を形成し、自然とお隣さんを生み出し、ウチガワにいる安心感を演出します。

巣み家
マエキタミヤコ賞
課題 : 遊び場・道具不足からくる子どもの精神的不調
アイデア : 紙製秘密基地
遊ぶことは子どもの「仕事」です。子どもには遊ぶ場所が必要です。それは必ずしも広い空間を必要とするわけではありません。
押入れの中、木の陰、建物のすき間、狭くて窮屈な場所こそが子どもの隠れ家、秘密基地になるのです。A0サイズのケント紙を折りたたみ、5枚組み合わせると、即席の子ども用ドームの完成です。

避難生活DS
近藤康夫賞
課題 : 広がる情報格差 安否情報の混乱
アイデア : 無線通信と手書き入力で情報共有
子どもから高齢者まで誰もが使いやすい手書き入力、タッチペン方式などの簡単なインターフェイス。端末同士の無線通信で情報やソフトウェアの交換、共有が可能なため、電話が通じにくい時にも、高齢者が多数の時にも情報の共有と集約が可能です。ペン入力や音声入力で自分の安否情報を入力すると、避難所外にインターネットを通じて自分の情報が公開されます。避難所内で、外部の安否情報、生活情報、復興情報など、避難生活に必要な各種情報を手に入れることもできます。

懇ポスト
嶋本達嗣賞
課題 : 心身の喪失感 ゴミ処理
アイデア : 育てる喜びをもたらすコンポスト
生ゴミ、それは有益な資源。ゴミ処理、それは育てる喜びの源。六角形型コンポストを毎日転がし、毎日自然に中身と土をかき混ぜ、じっくり肥料を作り、幸福の草花、樹木を育てます。芽が出るでるころには、避難所を離れる人々に記憶の手土産を、避難所となった小学校には記憶の花壇を贈ります。育てるという行為、それはいつ何時も人間の生きがいです。

プロジェクトのまとめ : 避難生活のためにデザインができること
避難所運営はどうしても行政、ボランティア頼みになりがちです。行政が生活物資を用意し、ボランティアが配布し、生活の世話をしてくれる。被災者側はそのサービスを受け、依存し、避難生活から脱することができる時を待ちわびる、そんな公助型避難所です。
しかし、避難所で生じる様々な問題を全て行政の力で解決することは不可能です。阪神・淡路大震災では一人ひとりが取り組む「自助」、地域住民同士、企業、ボランティア、専門家、行政など様々な人々が協働して支え合う「共助」の大切さが認識されました。精神的・肉体的負担が大きく、公助に頼りがちな状況でも、人は自立したい、他人と協力したい、そんな気持ちがあるはずです。過去の大震災でも必ず強いリーダーシップと多数の助け合い行動が生まれていることがその事実を物語っています。この自助・共助のこころをデザインはそっと支えてくれるのではないでしょうか。
公助頼みになりがちな避難現場にデザインの持つ美と共感の力が加わることで、水不足、治安の悪化、情報の混乱、医療の空白など、様々な問題を、住民自身が自発的に行動し、必要な決断を自ら下し、互いに協力することで解決できるはずです。

終わりに
3回にわたり、大震災という生活者の安心が脅かされる状況のための社会修理プロジェクト「震災+design : 避難生活をデザインする」をご紹介してきました。このプロジェクトには、全国から熱意あふれる44人の学生が参加しています。ごく普通の大学生、一生活者である彼ら彼女らが震災という日本社会が直面する危機的状況の現実をまっすぐ見つめ、避難生活が抱える複雑に絡み合った要因を読み解き、問題の本質に近づき、人の心に訴える素晴らしい数々のアイデアをつくってくれました。生活者が社会的課題の解決のために、知恵を絞り、身体を動かし、人を巻き込み、社会を動かす。そんな時代が既にはじまっています。生活総研では今後もこうした生活者発の社会修理の潮流を調査・報告していくと同時に、生活者とともに社会問題解決に取り組むプロジェクトに取り組んでいくことを計画しております。こちらも、別途の機会で報告させていただきます。今後とも宜しくお願いいたします。
連載内容
第1回 地震大国・日本の現状と脅かされる安心
第2回 [震災 + design] プロジェクト始まる
第3回 震災避難生活の課題解決デザイン
