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震災と安心

主任研究員
筧 裕介

調査概要

日本で生活していて最も安心が脅かされる瞬間。それが、地震に代表される天災に襲われた時ではないでしょうか。阪神・淡路大震災から10年以上がたちましたが、過去5年だけでも、北海道・十勝沖地震、新潟県中越地震、福岡県西方沖地震、能登半島地震、新潟県中越沖地震、岩手宮城内陸地震と大規模な地震が頻発しています。海外に目を向けても、6万人以上の死者が出た四川大地震は記憶に新しいのではないでしょうか。日本で生活する限り、いつ何時、大地震に襲われても不思議ではありません。そんな震災時の安心の現状を明らかにし、生活者の新たな動きを紹介するプロジェクトです。

連載内容

  • 第1回 地震大国・日本の現状と脅かされる安心
  • 第2回 「震災+design」プロジェクト概要
  • 第3回 震災避難生活の課題解決デザイン
筧裕介

第1回 これからの時代を切り開くべき世代との共同プロジェクト

東京の自然災害危険度は世界一

2003年3月、東京で生活する我々にとっては衝撃的なレポートがドイツのミュンヘン再保険会社から公表されました。「世界大都市の自然災害リスク指数」によると、東京・横浜は世界主要50 都市の中で、自然災害のリスクが極めて高いと指摘されています。
これは、各都市、エリアについて、(1) 危険発生の可能性 (2) 脆弱性 (3) 危険にさらされる経済価値の3指標で評価したものです。東京・横浜は20世紀にそれぞれ大地震に襲われたサンフランシスコ(1906年)、ロサンゼルス(1994年)、大阪・神戸・京都(1995年)よりもはるかに高いポイントの1位に位置しています。世界中のどの都市よりも、地震発生の可能性が高く、発生時に住宅の構造や密度面で脆弱で、経済的被害が大きいと第三者より評価されている都市圏に3000万人が生活しているのです。

1位
東京・横浜 710.0
2位 サンフランシスコ 167.0
3位 ロサンゼルス 100.0
4位 大阪・神戸・京都 92.0
5位 ニューヨーク 42.0
6位 香港 41.0
7位 ロンドン 30.0
8位 パリ 25.0
9位 シカゴ 20.0
10位 メキシコシティー 19.0
11位 北京 15.0
12位 ソウル 15.0
13位 モスクワ 11.0
14位 シドニー 6.0
15位 サンチアゴ 4.9
16位 イスタンブール 4.8
17位 ブエノスアイレス 4.2
18位 ヨハネスブルグ 3.9
19位 ジャカルタ 3.6
20位 シンガポール 3.5

図1 世界大都市の自然災害リスク指数
ミュンヘン再保険会社発表レポートより作成

震度7以上の首都直下型地震発生の可能性

私は東京出身ですが、小学生の頃より、毎年のように「関東大震災レベルの地震が近い将来、必ず来る」と言われ、避難訓練に参加したり、防災グッズの準備をしていたものです。そうこうしているうちに、約30年経過したのですが、幸いなことに東京首都圏は大規模な地震には襲われていません。それでは、はたして東京が大地震に襲われる可能性はどのくらいあるのでしょうか?
内閣府の中央防災会議の資料によると、南関東エリア(首都圏)は100年前後の間隔で地震の「活動期」と「静穏期」が繰り返されているようです。関東大震災があった1923年以降、静穏期に入っていますが、いつ活動期に移ってもおかしくありません。ただし、マグニチュード8クラスの大地震は元禄関東地震(1703)、関東大震災(1923)と200-300年間隔で発生していることを考えると、今後100年以内に発生する可能性は低いようです。しかし、この200-300年の間にマグニチュード7クラス(阪神・淡路大震災規模)の地震が数回発生しています。関東大震災以降では1924年の丹沢地震がこれに該当しますが、それ以降は発生していません。
これらを含む多面的な評価より今後30年以内にマグニチュード7クラスの首都直下型地震が起きる可能性は70%と推測されています。また、宮城県沖地震(M7.5)が99%、三陸沖北部地震(M7.1-7.6)・茨城県沖地震(M6.8)が90%、東海地震(M8)が86%、東南海地震(M8.1)が60%と今後30年以内に大規模な地震が高い可能性で発生すると指摘されています。我々の生活の安心はこうした大地震により常に脅かされているのです。

図2 首都直下型地震の可能性

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図2 首都直下型地震の可能性
出典:内閣府資料

首都直下型地震の被害予測

それでは70%の確率で今後30年以内に発生するマグニチュード7クラスの首都直下型地震が発生した場合、被害はどの程度のものになるのでしょうか。中央防災会議では18タイプの地震動、4つのシーン(冬朝5時、秋朝8時、夏昼12時、冬夕方18時)、2パターンの風速(阪神・淡路大震災時の3m/sと関東大震災時の15m/s)を設定し、それぞれの被害予測をシミュレーションしています。その中で、建物全壊棟数が最大となる東京湾北部地震・冬夕方18時・風速15m/sタイプですと、死者数11000人、避難者数460万人、建物全壊棟数・火災焼失棟数85万棟と阪神・淡路大震災をはるかに上回る大規模な被害が予測されています。死という最悪の事態をたとえ免れたとしても460万人が避難生活を強いられ、もし昼12時に発生した場合は死者数・避難者数は少なくなるものの交通機関のストップによる帰宅困難者が約650万人発生する事態が予測されています。

  阪神・淡路大震災 東京湾北部地震
マグニチュード 7.3 7.3
犠牲者数 6,433人 約11,000人
避難者数 約30万人 約460万人
被災戸数 約25万棟 約85万棟
経済被害 直接 約10兆円
全体 約13兆円
直接 約67兆円
全体 約120兆円

図3 首都直下型地震の被害予測
出典:内閣府資料

終わりに

このような最悪の時代を想定した対策は国や地方自治体レベルでは当然行っています。しかし、阪神淡路大震災・新潟中越沖地震のケースなどを見ても、災害現場での混乱や問題が多発することは明らかで、生活者の安心は間違いなく脅かされます。そこで安心を確保できるかどうかは、生活者自身の行動にかかってきます。そして、被害を最小に、安心を最大にするためには生活者の日常時の備えが重要になります。
続く年明けの第二回・第三回では、生活者自身が震災時の安心を考え、課題解決に取り組んでいる社会修理プロジェクト「震災+design : 避難生活をデザインする」をご報告します。全国22大学44名の学生の参加により、首都直下型地震では最大460万人が経験する可能性がある避難生活時に生じる、様々な課題を抽出し、その解決のためのデザインを提案するプロジェクトです。現在、学生がアイデアを創り上げている段階ですが、続々とユニークで創造的な解決策が生まれてきています。プロジェクトを通じて明らかになってきた震災に対する生活者の備えの実体、避難生活の現状、課題、そして具体的な問題解決のデザインアイデアをご紹介していきます。

連載内容

第1回 地震大国・日本の現状と脅かされる安心
第2回 [震災 + design] プロジェクト始まる
第3回 震災避難生活の課題解決デザイン

博報堂生活総合研究所 c2007 Hakuhodo Institute of Life and Living, HAKUHODO Inc.